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相続税の申告期限前に相続人の1人が死亡した場合(数次相続)の留意事項

相続税の申告期限前に相続人の1人が死亡した場合(数次相続)の留意事項

 

最近ではご両親が立て続けてお亡くなりなって相続手続きや相続税申告にお困りになっている方のご相談を伺う機会がよくあります。長年連れ添った配偶者を亡くして気を落とされてしまうことも理由にあるのかもしれません。このような場合、相続のことを親任せにしていると、いざ相続が発生した時に何をどうしたらよいか分からなくなってしまう方も多いのではないでしょうか。

 

今回は短期間に数次相続が発生した場合の遺産分割協議書の作成や相続税申告で気を付けたい事項について記載したいと思います。

 

例えば、相続人関係が父、母、長男、長女の家族関係で数次相続が発生した場合を説明します。

父の死亡日:令和281日(一次相続)

母の死亡日:令和2121日(二次相続)

 

このケースで父の遺産分割協議が成立する前に母も亡くなっておりますので、一次相続の遺産分割協議は母の相続人である長男と長女が母に代わって分割協議に加わります。この場合、母の遺産分割協議書の署名は長男、長女は「相続人兼(母○○○○)の相続人○○○○」と記載します。

ここで遺産分割協議の内容次第で一次相続の相続税が大きく変わってしまう場合がありますので注意が必要です。相続税の計算において母には配偶者の税額軽減があるほか小規模宅地等の特例が使える場合もあります。但しあまり母に財産を多く相続させると二次相続時の税金が多額になってしまいます。母の固有財産が少なければ一次相続時に母に相続してもらう方法も考えられますが、母の固有財産が多い場合は一次相続、二次相続のバランスを考えて長男、長女は遺産分割協議を行わなければなりません。一次相続で母が相続するものはあくまでも形式的なものなのですが、この分割協議の内容次第で税額も大きく変動するの注意が必要です。

 

次に相続税の申告期限ですが相続税の申告期限は亡くなった日から10ヶ月後であるため以下のとおりとなります。

父の申告期限:令和361日(一次相続)

母の申告期限:令和3101日(二次相続)

この場合、一次相続での母の申告義務は長男、長女に引き継がれ、申告期限は本来申告すべき母の相続があったことを知った日から10ヶ月となりますの一次相続の母の申告期限は令和3101日まで延長されます。但し事例では父、母の相続人は長男、長女以外にはいないので現実的には2人で一次相続の期限までに分割協議を行い、申告書を提出することになるでしょう。

 

少し事例を代えて一次相続直後に母ではなく長男が死亡した場合はどうでしょうか?

父の死亡日:令和281

長男の死亡日:令和331

 

両親の数次相続との違いは、長男に配偶者と子供がいた場合、父の一次相続の遺産分割協議成立前に長男が死亡すると、一次相続で協議する相続人は母と長女のほか、長男の配偶者、及び長男の子が新たに相続人となります。こうなると遺産分割協議成立までにさらに時間がかかってしまうことが想定されます。

父(一次相続)の相続税の申告期限は以下のとおりになります。

 

母(配偶者)、長女:令和361

長男の相続人(長男の妻及び子):令和414

 

このケースでも母や長女等の申告期限は延長されません。長男の相続人は本来の申告期限までとすると殆ど時間がないので一次相続の申告期限も二次相続の申告期限まで延長されます。

 

一般的には相続税の申告書は相続人が揃って協同提出しますので、長女等はもし申告期限までに遺産分割協議がまとまらなかった場合は未分割申告として法定相続割合で申告し、遺産分割協議が成立してから後日、更正の請求又は修正申告を行い税額の調整をすることになります。

 

最近では子供のいない方の相続相談が増加しており、兄弟や兄弟の子が相続人になるケースで数次相続が発生すると更に複雑な関係になります。相続が発生する前に相続人関係を

整理して遺言書を作成するなど対策をしておくのも良いでしょう。

 

以上のように数次相続の遺産分割協議及び相続税の計算は高度な専門知識が必要になるため、もし自分で申告書の作成出来たとしても、やり方次第で結果的に余分な税額を払うことにもなりかねないので、なるべく相続税経験の豊富な税理士に依頼すると良いでしょう。